遠友夜話3 新島八重はクラーク博士にあっていた。

 2013年のNHK大河ドラマ「八重の桜」の第一場面はアメリカの南北戦争だった。この戦争で使用された大量の銃が3年後、日本の戊辰戦争で使われ、この武器を大量に所持した薩長軍は、錦の御旗を捏造して自らを官軍とし、奥羽越列藩同盟など佐幕派を賊軍と呼んで箱館(函館)五稜郭まで追いつめ、箱館戦争に勝利して完全に全日本を支配下に置き、明治維新を徹底する。その8年後、北海道開拓使は東京増上寺境内にあった開拓使仮学校を札幌に移して札幌学校(後の札幌農学校=北大)とし、アメリカ南北戦争に出征した一人の男をその教頭として迎える。ウイリアム・スミス・クラーク博士である。この薩長新政府が建てた大学に集まった生徒は賊軍の子弟が大多数を占めた。学問を身につけるより他に彼らが世に出る道は無かったのである。クラークはこの日本初の大学で学生たちに自由と民主主義と大志を植え付けた。そして皮肉にもこれらの精神は薩長新政府の採った国家主義的教育路線と対立して行くことになる。そして、戦後、国家主義的教育が破綻すると、新渡戸稲造や内村鑑三の弟子達が主導して札幌農学校の教育思想とそっくりな精神のもと、旧教育基本法をつくり、戦後日本の民主主義教育の基を築いて行くことになるのであるが、僅か8ヶ月の滞在で去ったクラークには知る由もないことである。

 1877年4月16日、クラークは、後をしたって見送りに来た学生たちに、島松の駅逓でBoys, Be Ambitious!の言葉を残して去るのであるが、その後、真っすぐアメリカに帰った訳ではない。七重の官園に彼のマサチュセッツ農科大学での教え子・湯地定基を訪ね、更にそこから九州は長崎に向かうのである。折しも九州では西郷隆盛率いる士族の残党が西南戦争を引き起こし、クラークの雇い主、黒田清隆開拓使長官もその平定のため、征討参軍として九州に行っていたのである。黒田は熊本城を包囲する西郷軍を背後から襲う衝背軍を編成、薩摩軍に積年の恨みのある会津藩出身兵の活躍で、包囲を解き、クラークが札幌を去る日の前日、4月15日に熊本城に入城した。しかし黒田はこれ以上戦えば、尊敬する西郷隆盛を自分の手で殺さなければならなくなることを嫌ってか、17日には参軍辞任を要請、23日に辞任している。1877年5月2日付けのクラークの妻への手紙によれば、北海道を出てから6日で長崎に着いたとある。かれは、七重の官園に立ち寄って数日を過ごしていることを計算すれば、黒田とは入れ違いになり、九州では黒田と会っていないようである。手紙にも、野戦病院を見学し、黒田が平定した戦で傷ついた兵士がよくケアされていることを書いているが、黒田と会った記述は無い。

 ともあれ、クラークは長崎を、「これ程チャーミングな場所をこれまで見たことも無い」という程エンジョイしたようである。時間が無いと言いつつ、長崎の花や作物や樹木の描写を始め、様々な体験談を書き送っている。彼はその後、瀬戸内海を船で神戸まで行き、そこで彼が初めて日本の土を踏んだに時、横浜で30冊の聖書を彼にくれたギューリックと再会している。ギューリックはクラークが札幌で聖書教育をしたことに驚き喜んで、二期生用にと、更に追加の聖書をクラークに託した。クラークはそれを札幌農学校のホイーラーに送ったとある。クラークはその後、大阪をへて京都に向かい、新島襄を訪ねる。新島はアマースト大学でクラークが教えた最初の日本人学生だった。その時クラークは既にマサチュセッツ農科大学の学長だったが、明らかにアマースト大学の教授も兼任していたようである。クラークがマサチュセッツ農科大学をアマーストの地に誘致した時の議論の中に、近隣に大学の無い所に大学を建てれば、ヨーロッパから教授を招聘しなければならず、金もかかる。アマーストに誘致すれば、アマースト大学から教授を兼任で供給出来ると説いている部分があるが、自分でそれを実行したと言える。新島はクラーク招聘にも関わっており、両者の関係は深い。クラークの妻への手紙に、京都で新島襄とその妻と食事をし、宣教師達を訪問したという記述がある。新島の妻、即ち、新島八重である。八重についてのそれ以上の記述は無く、残念であるが、紛れも無く両者は会っているのだ。(毒舌学者)

  3 comments for “遠友夜話3 新島八重はクラーク博士にあっていた。

  1. 三島徳三
    2016/02/08 at 17:57

    新渡戸5千円札をなくしたのは、小泉進一郎首相ですよ。

  2. 藤田正一(毒舌学者)
    2016/02/12 at 17:02

    申し訳ない。新渡戸5千円札廃止と、1万円札福沢留任を決めたのは小泉首相の時でした。これに関しては安倍さんは無実でした。できれば、本文の該当部分を削除して下さい。

  3. office
    2016/02/12 at 17:35

    該当部分である最終段落を削除しました。
    よろしくお願い致します。

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